「M&A支援、給与体系を見直せ」(日経新聞への掲載記事)
公開日:2024.06.07
2024.06.07
更新日:2024.06.07
2024.06.07
M&A(合併・買収)の仲介サービスの利益相反問題はこれまで度々指摘されてきた。中小企業庁が設置する情報提供窓口へのM&A当事者からのトラブル報告が後を絶たない。中小企業庁の指導のもと、自主規制団体であるM&A仲介協会が旗振り役となり、業界の健全化を急いでいる。
M&A仲介サービスは、中立の立場で売り手と買い手のマッチングを提供するサービスだ。特定の当事者を保護し、利益を追求するサービスではない。本来求められる中立の立場を維持するためには、両者を差配できる立場にあるM&A仲介会社の担当者が、顧客の利益よりも自己の利益を優先させることがないような防止策を講じていく必要がある。
その点、M&A仲介会社における従業員の給与体系がトラブル発生を助長してしまっているように思う。M&A仲介業界では、基本給与が低い水準に設定され、成約1件につき数百万円、案件によっては1000万円超のボーナスが支給される設計になっていることも少なくない。
このような給与体系では、背に腹は変えられずに担当者が自分のボーナスを優先させてしまうこともあるのではないだろうか。その担当者に守るべき家族がいればなおさらのことである。
中小M&A業界に優秀な営業マンを集める点ではこのような報酬設計が非常にうまく機能してきた。だが、M&A仲介サービスの利益相反問題を原因とするトラブルが止まないのであれば、業界全体として、行き過ぎた給与体系を見直すべきではないか。
そもそもM&A当事者の利益を保護する目的においては、売り手、買い手双方を顧客として中立の立場で支援をするM&A仲介サービスの構造には限界がある。中長期的には諸外国と同様、M&A当事者の立場に立った支援が可能なファイナンシャル・アドバイザリーサービスの普及が期待される。
ただ、仲介サービスの枠組みの中で短期的にトラブルを減らしていく上では、業界の給与体系に一定のルールを定めることが有効だ。行き過ぎた給与体系がM&Aの当事者と仲介業者との間の利益相反リスクを顕在化させない努力が必要だろう。
本稿は、日本経済新聞 2024年6月7日「私見卓見」に掲載された当社代表 作田が寄稿した記事を転載したものです。
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